2019年 PEPUP スタディツアー もっとほっとなフィリピンを

 

事後レポート 髙松 秀徒 2019928日 神戸大学 国際人間科学部 環境共生学科 三回生

 

Sustainable Developmentについて

SPFTCのフェアトレードの現場から考えたフェアトレードの役割~

 

・はじめに-

  SDGsが次第に広まっていく中で、Developmentの方法や理由、またその本質について考えることが多くなった。「Development」とはある対象が今ある状態から、より高次の次元へと変化することを意味するが、なにをもって高次とみなせるか、という「物差し」やそのためのプロセス、「Sustainable」の意味についてなどはしばしば物議をかもす。

以下では、20199月に行ったフィリピンでのフェアトレードを学ぶスタディツアーからの気づきをもとに、Sustainable Developmentについての私の考えを整理する。

 

Sustainable Development Goals

 SDGsでは社会・経済・環境の三つに分類してSustainable Development Goalを定めている。

例えばGosl 1 は「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」であり、その中のターゲットの一つが「2030 年までに、現在 1 1.25 ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。」である。この目標は社会分野に属す。つまり、「11.25ドル未満で暮らす人がいなくなること」を通して「貧困をなくし」、それをもって社会分野においてDevelopmentした、と言い換えることができる。ただし、他の目標との相互作用・対立・葛藤は避けられず、17つの目標それぞれを意識しながら社会・経済・環境の各セクターでのDevelopmentが求められ、それこそが「持続可能な」Developmentだとされている。経済分野におけるゴール8「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」のターゲット8.1 「各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。」を達成するがゆえに、北の大企業が南で開発をした結果、環境分野におけるGoal 14持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」(ターゲット14.12025 年までに、海洋堆積物や富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。」)が損なわれるようではSustainable Developmentとはいえないであろう。

 SDGsは17つのゴールによって社会・経済・環境の各セクターの相互依存関係を認識させ、誰一人取り残さない” ことを掲げている。とはいえ、具体的にどうすればSustainable Developmentできるのかや、そのSustainable Developmentの評価というものは難しいものであり、私たちが考えていかなければならないところである。

 

SPFTCのフェアトレード

 SPFTCは小規模な団体ではありながら、フェアトレードを通じてこれまで約23年間フィリピンにおける小規模生産者(農家・漁師・女性)らに働きかけ続けてきた。今回のスタディツアーで訪れた四つの生産者団体はどこもSPFTCとフェアトレードをしているが、その関係性ややり方はそれぞれ異なり、そこにはSPFTCが模索するSustainable Developmentがうかがえる。以下いくつかの訪問先を挙げて、考察していく。

 

 <A;セブ島のアロギンサン-SRFAの場合>

 一つ目のSRFASPFTCが最も長く取引をしている生産者団体の一つである。SPFTCとはココナッツ、ターメリック、モリンガなどをフェアトレードしている。とりわけココナッツの場合は、仲買人に買いたたかれる場合より公正な価格で買い取っている。(仲買人Php5/1piece : SPFTC Php8/1piece 2017 Sepインタビュー)ここでいう「公正な価格」とは、SPFTCと生産者間で情報を共有し、対話を通じたうえで合意にいたった価格のことである。一般的にフェアトレードを簡単に説明する際にはこのような事例を挙げて終わるが、SPFTCの活動はこれだけではない。ここの場合はずっと土地をめぐるlandlordとのたたかいが大きな問題であった。権力者が土地の税金を支払う証明書を入手して、土地の所有権を主張しつづけ、高額な土地使用代を求めてきていた。20092010間ではこのlandlordが強引に土地を奪おうとした際に生産者らが起こしたストライキに対して、私兵や警官を動員して百人ばかりの生産者らが捕らえられるという事件もあった。SPFTCはこの大きな問題に対し、自らのネットワークをいかして法的バックアップや周囲からの賛同をえようとサポートし、いまではそのlandlordとの争いは落ち着いている。今回、SRFAを率いるリーダーたちにSPFTCとフェアトレードをしようと思った動機となぜ20年以上も関係が継続していると思うか尋ねてみた。前者に対しては、「農業のことについてなどの知識をもっと手に入れられる機会だと思ったから」で後者については「共通の目的(Sustainable Development)をもっているから」だと答えてくれた。SPFTCは生産性の向上や、新しい作物の導入・多様化などについてもサポートしており、モリンガやターメリックはその例である。加えて、より生産者たちの所得向上をはかるために、ココナッツを加工するための小さな工場を建て、さらなる仕事の機会の提供やその技術指導、適切な労働環境づくりに貢献してきた。SPFTCRollyは彼らのもとを訪れ、そのまま宿泊させてもらうことも多々あるという。現在まで続く関係性は長い時間をかけて、お互いのビジョンを共有しながら対話をつづけてきた成果なのかもしれない。

 

 <B;レイテ島のマタグオブ-SSPFAの場合>

 SSPFASPFTCとのかかわりではまだ日が浅く、お互いに顔を合わせたのは20189月が初めてであった。PEPUPのドライパイナップルのために、パイナップルを彼らと取引し始めた。仲買人からPhp20/kgで買いたたかれるところ(2019 Marchインタビュー)をSPFTCPhp25-30/kg間でフェアトレードする。SSPFAのリーダーであるロミオは最多のパイナップルを所有しているが、もともとはココナッツ農家であったのが2013年の台風被害によってパイナップルへと移行したため、パイナップル農家としての歴も長くはない。また他の大規模プランテーションの影響もうけて、パイナップルの市場占有されていて、なかなか思うように売れていないのが現状だ。彼らにもSRFA同様、「SPFTCとフェアトレードをしようと思った動機」について尋ねたところ、「パイナップルの売り先の拡大のため」というものであった。また、フェアトレードについての理解もまだ不十分だと思われ、Rollyはこれから対話を重ね、フェアトレードについての理解も深めていきたいと言っていた。

 

Sustainable Developmentについて

 上のABは単純に比較することはできないが、両者におこなった同じ質問に対する回答や彼らの姿勢を比べて考えてみると、Aの方は「農業などの知識獲得のため」と、現状からのDevelopmentのために自分たちの側(内)の改善を必要と考え、そのためにSPFTCを利用しようとしているとみれる一方、Bの方は「市場拡大のため」と、現状からのDevelopmentのために自分たちの周りの環境(外)の改善(外からの改善)が必要だと考え、SPFTCを利用しようとしているとみることができる。Aが現状を変化させるうえで自らDevelopment(発展)しようとしている一方で、Bは外からの変化でDevelopment(開発)してもらおうという風にみることができるのではないだろうか。SPFTCの役割は同じであっても両者のこの違いはSPFTCの見方を変え、Aにとっては「協力者」である一方でBにとっては「支援者」になりうる。国際協力のような分野ではよく一方から他方へ「与える」だけにとどまり、Sustainableでなくなる場合が多い。Aの側がSPFTC20年以上も関係が続いている理由の一つがここにあるように思う。

 とはいえ、ASPFTCとのフェアトレードを通じてDevelopmentしてきたのか、その評価をするのは非常に困難であるし、疑いもある。今回の参加者の中にはAでのホームステイを通じてあらゆる貧困のあり様を感じたものたちがいた。食べ物、農業の仕方、教育、服装、トイレ、水、衛生面、などなどである。20年もフェアトレードを続けてきてもこの程度なのか、とその効果に疑問が投げかけられた。この疑問は正しく、小規模なSPFTCの行うフェアトレードの限界ともいえるかもしれない。しかし、20年間もフェアトレードを続けてきたその関係性もまた客観的な成果であり、わたしはそこに注目したい。事実、SRFAはこれまで土地を巡って闘い、激しく変わる市場経済と闘い、地球温暖化や水不足といった過酷な自然環境と闘って、新しい世代へと組織を繋いできたのである。社会・経済・環境というものはあえて変化させなくても、勝手に変わっていってしまうものであり、私たちは常にその変化に対し、柔軟に対応することを求められる。SRFAとSPFTCのDevelopmentはこれまでの変化に対して、知恵や技術を獲得し、自分たちが「変わらずに」い続けたことともいえるのではないか。*少々語彙矛盾を含むが「変化しないこと」 を Development と捉える姿勢である。(太田先生著「Developmentをどう捉えるか-21世紀のゆらぎ」2017) それを可視化させて評価することは困難だが、わたしはここにSustainable Developmentの可能性を感じる。彼らは自分たちの土地を守り、社会に食べ物を提供しているという自負を守り、家族を守るためにDevelopmentしている。自分たちが真に「欲するもの」を見失わないからこそ、SPFTCの行うあらゆるサポートをうまく受容し、あらゆる可能性へと発展していけるのではなかろうか。

 

 

フェアトレードがもたらすもの

 「フェアトレードとはなんですか?」と聞かれたときに、安く買いたたかれる小規模で零細な生産者から公正な価格で取引し、貧しい生産者の自立をサポートし、かつ国際貿易をよりよくしていくこと、が簡単によくする説明である。ここだけ聞くと、フェアトレードは経済的な国際協力のように思えるが、フェアトレードが果たす役割というのはそのほかにもある。例えば、SPFTCはWorld Fair Trade Organization(WFTO)という国際的なフェアトレードのネットワークに加盟しているが、WFTOの加盟団体が遵守すべき10原則は以下の通りである。

 

WFTO10原則

1.生産者に仕事の機会を提供する

2.事業の透明性を保つ

3.公正な取引を実践する

4.生産者に公正な対価を支払う

5.児童労働及び強制労働を排除する

6.差別をせず、男女平等と結社の自由を守る

7.安全で健康的な労働条件を守る

8.生産者のキャパシティビルディングを支援する

9.フェアトレードを推進する

10.環境に配慮する

 

よく意外に思われるのは、フェアトレードが6のジェンダーに配慮している面や10の環境に配慮している面である。先のSDGsであらゆるセクターを意識しながらのDevelopmentが必要だと述べたが、フェアトレードはまさに17つのゴールのほぼすべての要素に関連したアプローチの1つだといえる。

  SPFTCの場合は、SRFAには法的知識サポートや、別の場所のKInatarcan Islandでは2013年の大型台風ヨランダ以降、その復興支援と環境に配慮したSustainable Developmentを現地の女性チームとともにエコツーリズムを通じて模索している。ここで重要なのはSPFTCが政府・協会・他のNGO等などとのネットワークをもっており、彼らからもサポートをうけている点である。Kinatarcan Islandの場合は、フィリピン人にですら全く知られておらず、別名Forgotten Islandと呼ばれていたのだが、SPFTCと現地住民の継続的な努力とそのネットワークのおかげで、G-dairyというフィリピンのテレビにも出演するまでに至ったのである。このアプローチが功を奏するかわからないが、SPFTCが現地の人々らと時間をかけて対話し、Kinatarcan住民自身がつくりあげてきたということが大切なことだと思う。

 フェアトレードが果たす大きな功績がモノとモノの取引の中に、人間らしい関係性をつくりあげる点だと思う。「公正な」取引をするうえで不可欠な対話、それは通常の仲買人との間にはなく、生産者には値段・時間・条件などをきめることはできないという。SPFTCはAのSRFAとの対話を続けてきた結果、フェアトレードへの理解を深められたり、単なる利害関係を超えた関係性を築けたりしたともいえる。フェアトレードには「前払い制度」というものがあり、生産者側が要求すれば、SPFTCは見込める収穫量の最大60%まで事前に支払うことがある。この制度は収穫前に医療費などの突発的支出が必要で現金が足りないといったときなどには、農家にとってのセイフティネットになりうる一方で、予測不可能な天候において本当に見込んだ収穫量がとれるのか、や本来作物の質によってその価格は決まるべきであるところを、質を見ずに値段を決めてしまうことに不公正だということもできる。実際にSRFAもSOFTCに複数回この前払い制度を要求したことがあり、収穫前の台風によって、事前に支払った分を回収できず、SPFTCが取引先に対して責任をとったという事例もあったようだ。これ以降、SPFTCはSRFAと対話を重ね、前払い制度のリスクやお互いの責任を理解してもらうようになったという。SPFTCのNIKKIは以前「Fair Trade gives you Philosophy」と言っていた。「公正な」取引という決まりのない哲学が、生産者とSPFTCとの間で共通の「正義」とお互いを理解する関係性をつくっているのだろう。今回のホームステイも忙しい中、生産者の方々がその利害関係を超えて、わたしたちにつくってくれた機会だと思う。BのSSPFAも、これからフェアトレードを継続していく中で、どのような関係を築いていけるか、楽しみである。